（続き）
架空のロケーションハンティング。
この日は新神戸駅を出発して、湊川・新開地まで歩いている。直線距離なら４～５km といったところか。公的な施設だけではなく、私的な博物館も臨時休館中。屋外空間でありながら入場不可になっているのを事前に知っていたため最初から足を向けなかった懐かしい場所もある。普段から訪れる人など稀ではなかったか＿と思うのは、腹癒せ混じりの下種な感想だろう。
撮り終えた画像を眺めていると、ここに美しい人に立ってもらって＿と考えている私が見える。（一か所私自身の映り込みの画像もあるのだが）
しかし、歩きながら考えていたのは、母や祖母の思い出。もう遠くへ移転してしまったが、私の生まれた病院が建っていた場所も通過した。同じ病院で二歳下の妹も生まれている。祖母と祖母の知り合いのヨシエさんという若い人と一緒に妹を見に行った。市電の停留所三つ四つ分の距離だったはずだが、三人でタクシーに乗っている。
街並みは阪神淡路の震災のために短時間に様変わりしてしまったが、歩き慣れた道を行くと、母も祖母も、どこかの角に立っている気がしてならなかった。二十歳以降の自分の姿を思い描けないでいた詰襟姿の私も。
湊川まで歩いて、いつもの角打ちに寄った。角のポケット瓶と摘まみを頼み、コップにお湯を入れてもらう。３～４時間の外出で人語を発したのは、この注文時のみ。店内は私より遥かに高齢の常連さんたちで賑わっていた。
薄い湯割りが体の中を降りていって、2020年3月の私に戻った。
