（続き）
彼岸、墓参りの後、懐かしい駅で快速電車を一人降りた。この日は快晴。日差しも暖かく、流行り病のことなど忘れている。
勤め始めてすぐに移り住んで、約１５年。ここを離れて２５年以上が過ぎている。いろんなものが変わり、無くなってしまうのに当然の時間が過ぎたと言えるのだろう。震災が無ければ、あるいは、その変化はもっと緩やかだったのかもしれないが。
この街で娘は育ち、私はこの街の現場で働いていた。家族三人で行った居酒屋も、夕食後の散歩で立ち寄った小さな書店も今はない。それでも変わっていないものも多かった。記憶の中から、今はもう響くことのない和田岬線の汽笛を甦らせる。駅前に住んでいた先輩が飲み会の度に、「近くで、汽笛を、聞きながら」暮らしている＿と冗談にしていたことも。
過ぎてしまった時間は戻らないけれど、もう一度ここで暮らしてみても悪くないように思えた。
