この日一日を締めくくるのに相応しいものを見た。
「二時五十九分ノ途中下車」 江崎武志
妄想ノ
(続き)
入場料三百円を払うと硬券に鋏が入る。
チラシの裏にこんな言葉があった。
モシ三時丁度ニ ナニカガウマレタリ
思イガケナイアイデアガ浮カンダリスルノナラ
今ハ マダ二時五十九分
錆ツイタ連想連鎖機関
アテノ無イ途中下車ノ旅ニ出テミヨウト思ウ
ソンナ事ヲ妄想スル
在廊中の作者、江崎武志氏は
それを補完するように静かな言葉を繋いでいた。
大きな動輪を回してみることができる蒸気機関車のオブジェ。
硬券を持った入場者は、この機関車の乗客なのだ。
「空白驛」で途中下車して、不思議な、懐かしい事物を目にしたり
触れてみたりすることが許される。
作者の説明の中に何度も出てきたガラクタという言葉。
確かに、この美しい夢を支えているのは
価値の無いものとして棄てられていたものばかり。
子供の頃なら好奇の眼差しを向けていたはずなのに
いつか、そんな心を忘れてしまう。
作者が拾い蒐めてきたものを眺めながら
失くしてしまったものを振り返らずにはいられなかった。
いろんなところに
覗き穴の仕掛けが用意されていた。
私が一番惹かれたのは、この大きな時計。
こんな帽子を被ったことはないのに、
そこにいる男は
私だと思いたかった。
学生の頃なら、この後、飲みに行って、
朝まで話し続けていたはずだ。
そんな友人の顔を思い出しながら、
もう40年近く会っていないことに気づいて
愕然とするのだが…。